土曜の朝、目が覚めてカーテンを開ける。お日様が、「さぁ、出ておいでよ」と言っていたら、銭湯日和だ。
顔も洗わず、身支度を整えて車に乗り込む。
FMラジオでララララー、I LOVE YOU……よく聞くと YOUR MY EVERYHTHONGと歌っている。はいはい、君は僕のすべてね…一気に気持ちはハイテンション。
銭湯につくと、いつものNO.126の下駄箱が空いてる。ラッキー!脱衣所でも好位置のロッカーが空いてる。思わず鼻歌が出てくるというものだ。
昨年ずーっとベッドがお友達で、抗ガン剤の吐き気に埋もれていた時期、「あー銭湯にいってみたいなー」と思った。
でも、まずシャワーキャップを買わなきゃ。それもホテルのおまけについている透明のじゃなくて、スキンヘッドが見えないやつ。そのブルーの花柄のシャワーキャップを手に入れるまで、やおら時間がかかった。売っていないのではなく、買いに行く気力が無かったのだ。
1ケ月ぐらいあとに、気分が良かったので銭湯に出かけた。脱衣所のロッカーの位置が問題だ。カツラを取ってスキンヘッドを見られずにシャワーキャップをかぶれる死角だ。こそこそ用意をしていると、そこがいつも定番のロッカーなのだろう。常連らしいおばさんが、どかどかと私の隣にきた。聞かれてもいないのに言い訳しなきゃいけないような気がして、「抗ガン剤で毛が抜けて…」と言った。
その日湯船につかって、銭湯に入ることがこんなに簡単なのに、なんて有り難いことだろうと涙があふれてきた。
こんな暖かな湯につかれる幸運というものを、気づいたこともなかった。ここ数ケ月の苦しさを洗い流すに足る感動だった。と、同時に今この瞬間も抗ガン剤や色んな病気で(もしかしたら戦争や飢餓で)苦しんでいる人がいることを、消して忘れてはいけないのだと思った。
今年の八月、孫達を呼んで大いに疲れたのだが、今日のように土曜の朝、孫達と銭湯に行った。露天風呂はすいていて、私と娘と孫達3人。お日様きらきらを思い切り浴びて、めいめいに楽しんでいる。「ああ、こんな小さな幸せの瞬間の為に、自分は生きているのだ」と心からほほえんで、そう思えた。
八月の末に孫達が来て、帰って、それからが目の回るような忙しさだ。
せかされているわけではないのに、前に前にと引っ張ってくれている誰かがいる。
病気が回復してみて始めて、世の中には何て幸せに満ちあふれているのだろうと思える。戦争に涙している人・飢餓に苦しんでいる人のことを考えると、自分の無力さに言葉もないが、私のまわりにはたくさんの幸せが転がっているのだと思えるのだ。
道を譲ってくれた車に返礼したら笑顔が返ってきた。
こちらを向いた赤ちゃんに目で話しかけたら、こちらを向いたまま固まってしまった。
スーパーで会ったお客さんの親子。「あっ、いつもお菓子くれる薬屋さんのおばさんだ。」言葉を発したわけではないけど、そう目が言っている。
仏さんのお花が元気で咲いていてくれる。
母と友人が送ってくれた巨峰に舌鼓をうち、幸せだねーと言い合う。
たくさん拾ってたくさん幸せ。
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